How are you?

壁が突然なくなった翌年の元旦、ぱたりと途絶えていた光村龍哉facebookが「光村龍哉、動きます(意訳)」と唐突に更新された。
主語も修飾語もない不親切な内容に、なんやこいつと困惑したし、いやもっと先に言うことあるやろ!と怒りもした。

 

彼が始めたのは、準備運動と称したゲリラライブ。

時には原宿、時には大阪、時には四国――。

各地の路上や駅にひとり(時には仲間も連れて)ふらりと現れては、気のむくままにNICO Touches the Wallsの曲を中心にライブを行い、ライブが終わればさっと消えていく。

そんなおひとり様ゲリラツアーを、彼は毎週のように続けていた。

その開催にあたり、ファンには位置情報共有アプリというヒントが与えられた。

光村龍哉は、ライブ当日の移動中に、アプリで位置共有を開始する。

ファンたちは、その情報を元にライブが開催される場所を予測・特定してそこに向かう。

ちょっとしたゲーム性?があって、その都度Twitterが場所特定で盛り上がっていたことを覚えている。(通称光村GO)

 

そんなツアーが始まって数週間、中々自分には参加の機会が巡ってこなかった。

そもそもが遠くて到底間に合わない場所だったり、近場でもタイミングが合わなかったり。

神出鬼没な光村をゲットするのは、スイクンをゲットするくらい難しい。

 

ある日の休日、いつものようにアプリの通知が鳴った。

ぼんやりしながらスマホの画面を覗くと、頭がさーっと真っ白になった

画面に映る位置情報は、自宅から1時間圏内の馴染みのある場所を示していた。

とうとうこの時が来たかと、心臓がばくんばくんと音を立て、スマホを持つ手からは汗がじわじわと滲み出た。

しかし、いざ自分の番を迎えてみると、あれ程楽しみにしていた念願のライブに「行かない」という選択肢があることに気がついた。

向かった先には光村龍哉はいれど、当然対馬祥太郎も古村大介も坂倉心悟もいない。

2019年11月15日に文字の情報として見た活動終了という事実を、生の光村龍哉を見ることで、より強く認識してしまうということが、なにより怖かった。

 

メモっといた方がいいぜ

後悔墓場に届く前に

 

それでも、ここで行かなきゃずっとずっと死んでからも後悔するんだろうなと思った。

大至急で部屋着から着替えを済ませて、駅までを鼻息荒く駆けた。

向かう電車の中、アプリ内での光村龍哉の移動はライブを行う場所が決まったのか、いつの間にか止まっていた。

スピードを荒げて走る電車は確実に会場までの距離を縮めていき、それに比例するかのように心拍数は加速していった。

 

最寄り駅にに着く。電車のドアが開く。階段を駆け上がる。改札を通過する。ロータリーに出る。

休日で賑わう群衆の中、改めてその姿を一生懸命に探す必要なんて一つもなかった。

群衆の中でひときわ輝く声とビジュアルを持った、オシャレな長髪の男なんて光村龍哉しかいないのだから。

その日ライブの記憶は、正直あまり思い出せない。

だだ一つ覚えていることは、マイクを通さない生声でも、ライブがあまりにも圧倒的だったということだけ。

天才なんですよ、やっぱ。

 

ライブ後、片付けを始めている光村龍哉に「大好きです。ずっとファンです。また路上ライブやってください!」と伝えて、その場を後にした。

帰りの電車は呆けたように、流れる景色をぼーっと見ていた。

そして、あのライブは突然のお別れとなってしまったファンに向けた、彼なりの贖罪の形なんだということをふと思った。

家に着いて玄関のドアを締めた瞬間、堰を切ったようにそれまで堪えていた涙が溢れ出てきた。

不器用すぎるんだよ、優しすぎるんだよ、ばかやろう。

 

その後は、世界的なパンデミックとなったCOVID-19の影響で、路上のゲリラライブですらも行えないような情勢となった。

結果的に、ゲリラライブに参加できたのはあの一回きりだった。

 

 

準備運動期間を終えた、光村龍哉は北海道でZIONという新バンドを結成した。

今まで何度かライブに行ったけれど、どうしてもNICO Touches the Wallsの影がライブ中にちらついた。

そのような状態では、ライブに集中して音の世界に溺れることは到底できず、足は自然と遠のいていった。

 

 

 

 

 

昨日、光村龍哉を見た。

ZIONだけではなく、NICO Touches the Wallsという肩書も引っ提げた光村龍哉を、だ。

約1万を収容した、だだっ広い会場。

お祝いに集まった4組の内、1組だけ場違いなおひとり様。

持ち物はアコギ1本だけ。

圧巻だった。

圧巻すぎた。

圧巻すぎて笑ってしまった。震えてしまった。鳥肌が立ってしまった。

 

豊富な音楽知識や経験に裏打ちされた、変幻自在のアコギアレンジ。

会場の隅から隅まで響き渡る、妖艶で心臓を突き抜かれるかのような歌声。

登場時の「メリークリスマス」の一言が伏線となった、Happy Xmas (War Is Over) のマッシュアップ

凄すぎて引いてしまっていた、おそら初見の目の前に立っていた観客。

大勢の観客の前では、約5年4ヶ月ぶりに披露したNICO Touches the Wallsの楽曲。

旧知の友を呼んでの、楽曲とキーを事前に決めただけの(ほぼ)即席のデュエット。

ラジオパートでイジられて、ちょっとバツが悪そうにはにかむ様子。

 

どこをとっても僕がずっと追ってきた、僕が大好きな光村龍哉だった。

泣いちゃうよ。あんなの見せられたら。

 

彼を誘ってくれたUNISON SQUARE GARDENには、本当に感謝しかない。

NICO Touches the Walls時代の話を、ごく当然のように自然に振ってくれて、本当の本当に救われた。

魔法のiらんどのアボガドじゃなくてアボカドでは?のおはなし大好きだよ。

 

 

2019年11月15日以降、ゲリラライブ参加以降と同様に、現在光村龍哉の楽曲以外を聴くことのできない現象に苛まれている。

他のアーティストを聴くことを耳が拒絶する。耳が光村龍哉のみを求めている。

僕は相当に執着心が強く、諦めが悪いメンヘラチックなところがあるみたい。

ようやく壁があった頃の感覚を少しずつ忘れかけてたのになぁ。困ったなぁ。今日のインスタのストーリーずるいヨォ。

悪いけど、壁が戻るのを一瞬も諦めたことないし、壁の曲をこれからも死なせずにず~~っと聴き続けてやるから覚悟しとけ!ばーか。